【超ザックリ解説】人間失格|太宰治が最後に残した国民的“闇”の小説

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今回は日本が誇る超名作「人間失格」について解説します。

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人間失格といえば、著者の太宰治がこれを書き上げた一か月後に自殺してしまったことから、遺書的な意味合いを持ちつつ、さらに彼自身の人生と似通った点がかなり多いので自伝的な意味合いも持っているんです。

太宰治が人生を懸けた一冊でございます。

どんな内容かと言いますと、日本を代表する小説なのでご存知の方も多いと思いますが、主人公の葉蔵という、太宰治が自身と重ね合わせまくっている葉蔵という男がひたすら酒と女にまみれていく暗いお話でございます。

ごくたまに救いのあるような展開があるんですが、ごくたまにです。「このまま葉蔵幸せになれるんじゃないの?」と期待を持つや否やぶっ潰されると。ただひたすらに闇に堕ちていく小説なんです。

この日本という国ではそんなしんどすぎる闇の小説が700万部以上歴代2位の売り上げを叩き出しているメチャメチャ売れてるわけです。

主人公の葉蔵がただのクソクズ野郎だったらこんな国民的な小説になるでしょうか?

救いようのなさそうなんですが、ところどころに考えさせられるんです。本当に人間失格なのかと思える葉蔵ですが、「人間失格だ!」と「そう一段上から裁きを与えていい人物なのか?」と何が自分と違うのか?

「逆にこの葉蔵こそがどの登場人物より人間らしいんじゃないか」と思わせられる人間模様に、我々読者は我々日本人は惹きつけられてしまうのかもしれません。

是非そんな視点を踏まえながらご覧いただきたいと思います。

本編

「恥の多い生涯を送ってきました」

非常に有名なこの一文と共に、最初は主人公葉蔵の幼少時代のお話から始まります。

葉蔵はめちゃくちゃ大家族で、田舎に住む10人の大家族の末っ子として生まれました。大家族と言ってもテレビでドキュメンタリー番組送られちゃうような食べていくのがやっとの貧乏みたいな大家族ではありません。

しっかり金持ちです。お父さんが地方議員さんなので下男下女っていう、男のお手伝いさんも女性のお手伝いさんもいるって言う昔気質のお金持ち古風な家庭に生まれました。

例えば、夕飯を食べる時なんかも必ず全員揃って、お父さんは一番偉いから上座の特等席に座るみたいな家庭です。お父さんはそのリーダーですから、完全トップダウン、昔ながらの強いお父さんです。

そんなゴリゴリピラミッド組織が築かれた家に生まれた葉蔵は、まるで伝統的大企業の新入社員かのように他人の目を気にして、「周囲の人が何を考えていて何を求めているのか?」とにかく汲み取る少年に育ちます。

古風な金持ち大家族の末っ子として生まれたんでそれを求められてもいたんですが、葉蔵は悩みます。

「何を考えてるのか全然わからん」と。

お兄ちゃん、お姉ちゃん、お手伝いさん。そして何より一番偉いお父さん。みんなの気持ちをキャッチしようと思えば思うほどよくわからなくなる。

「自分は他人の気持ちが全くわからない。共感できない変人だ」と悩みに悩みまくって最終的に道化になる道を選びます。

道化とはつまり、ピエロのようにおどけて周囲の人達を笑わせようとしたってことです。「相手の気持ちなんて読めなくても、とりあえず笑わせておけばいいんだ」とおどけて笑わせて、作り笑顔で自分も笑っておけばうまいことを周りに馴染めることに気づきます。

代表的なエピソードはお土産事件です。怖いお父さんが東京に出張する時、子供達にお土産は何がいいかって聞くんですよ。

東京出張のお土産を子供から親戚にまでドヤ顔で渡すのがお父さんの趣味だったんだと葉蔵もそれは分かっていたはずなのに、咄嗟にお土産を聞かれて答えられなかったんです。

お兄ちゃんお姉ちゃんは無邪気に「おもちゃがいい」「これがいい」みたいに答える中、葉蔵だけは「ぶっちゃけお土産とか興味ないし。強いて言えば、まあ本が欲しいんだけども、それもなんだか無邪気感弱いしな。何にしようかな」とか迷ってたら何も答えられなくなってしまったと。

結果お父さんは「こいつなんか可愛くねえなぁ」と不機嫌になっちゃいます。

「これはやべえとどうにか挽回しなきゃ」って事でそこから葉蔵は察する力をフル活用して、お父さんの言動を分析し、この人は俺にシシマイのおもちゃを買い与えたいようだと察します。

その分析結果をもとに、こっそりお父さんの手帳に隠れて、下手な子供らしい可愛い子でシシマイが欲しいとそう書き込むんです。

もうそうしたらお父さん大喜びです。

東京から帰ってきたお父さんは、もう家族みんなに「葉蔵がシシマイ欲しさに勝手に俺の手帳に書き込んだんだけど、ほんとしょうがねえよなあ」みたいな感じで大変ご満悦。葉蔵の大勝利です。

シシマイなんて一ミリも欲しくないけど、お父さんのご満悦を引き出すことに成功しました。

大成功したんですが、ここから地味に大事なポイント。これは養生の人生全体で見ると敗因とも言えるわけです。

これは本書にも明確に書かれていますが、この葉蔵のくせで、人から何かを与えられた時に、嫌なものを嫌とも言えないし、はたまた今私は本が欲しいんだと主張することもできない、一生懸命頑張って相手の思うがままになってしまう、このくせが恥の多い生涯の重大な要因になったとそう書かれています。

もうそのくせは、幼少の頃から葉蔵を闇の世界に引きずり込んで行きます。

葉蔵はお父さんとかお兄ちゃん、お姉ちゃんにへいこらするだけじゃなくて、立場的には命令をして自分の思い通りに動かしてもいいぐらいのお手伝いさん達にも最大限へいこらせてしまうんです。

彼らがなかなかろくでもなくてですね、雇い主のお父さんの事を文句言ったりします。それを見ても葉蔵はヘラヘラと見て見ぬふりをするだけ。そんな葉蔵の弱さにつけこまれて、本書では犯されていましたと表現されてますが、要は下男下女から性的虐待を受けていたんです。

それを後から振り返って、人間の行いうる犯罪の中でも最も醜い犯罪だと憎しみを込めて書いています。

書いてますが幼い葉蔵は性的虐待を受けても、ただ力なく笑っていることしかできなかった、そんな悲しい過去が語られます。

学生時代に参ります。地元からちょっと離れた東北地方の中学に入学する葉蔵。

中学生の頃には幼少時代から続けていたおどけ方も板につきまくり、いとも簡単にクラスの人気者になってしまいます。

例えば、体操の授業の時間なんかも運動だって人並みにできるはずなのに、わざと盛大に尻餅ついたりしてクラスの爆笑を誘います。

強面の先生でさえも雄三の踊りにはつい笑っちゃう始末だったとだったんですが、竹一という同級生にだけは気づかれてしまいます。

「それってわざとだよね」と指摘されてしまいます。葉蔵はめちゃくちゃドキッとして、「なんで竹内なんかに」

竹内はクラスで一番貧弱な体つきをして、着ているものもみすぼらしい冴えない男子。まったくノーマークだった竹一から「あの尻餅わざとだよね」とこっそりですが指摘されて葉蔵は慌てふためきます。

「おどけてみんなを騙していれば、こんなに快適な中学生ライフを送れてるのに。それがこの竹内という貧弱野郎の暴露で全部崩れてしまうかもしれない」最大の恐怖を感じます。

さすがに竹一を殺すわけにもいかないで、葉蔵は逆に竹内と親友になろうとします。

みんなが気味悪がって近寄らない竹一に、バラされたくない口封じのために、最大限親友であるかのように振る舞います。

ただ最初は演技だったんですけど、葉蔵の演技を見破るなどなぜか本質を見抜く力を持つ竹一に、いつしか信頼を寄せて行きます。

竹内以外のお友達にはおどけたハニーでポップでおバカな漫画を書いてる葉蔵ですが、初めて竹一に向けては自分の本性を全て丸出しにした自画像を書くんです。

それはもう陰惨な暗くておぞましい絵になったんですけど、それを見て竹一は一言「お前はとんでもない絵描きになるよ」と助言します。

竹内はもう一つ「お前は女にも惚れられるよ」と、そういう予言も残します。

葉蔵としては非常に恐ろしく感じます。確かに今まで女兄弟とか性的虐待をしてきた女のお手伝いさんとかやたら興味を持たれて秘密を打ち明けられたりすると葉蔵は「女性の気持ちなんて分からない」「何なら女性をめちゃくちゃ怖いと思ってる。なのになぜかいつも女性に興味を持たれるんだ」と。

竹内は葉蔵がこれから数多く引き起こす恐ろしい未来もなんとなく予見していたのかもしれません。

竹一から「すごい絵描きになるよ」と言われた葉蔵は美術学校に行って画家を目指したいと思います。

思いますが一瞬でその夢は打ち砕かれます。

お父さんに「お前は東京の賢い高校に行って、それから帝国大学に入って将来は役人になりなさい」とそう命令されちゃって「美術学校に行きたい」と言い出すこともできず、ひたすら仰せのまま東京にある賢い高校に進学します。

ただ東京の賢い学校はとにかくつまらないんで、こっそりお父さんには内緒で絵描きになるため画塾にも通うようになります。

その塾で奴に出会ってしまうです。人間失格のキーパーソンである堀木という男。もうこいつはろくでもないやつです。初めて話しかけてきた言葉が「お金かしてくれ」ですからやばいですよね。

でも葉蔵は貸しちゃうんですよ。お金持ちのお父さんからの仕送りで、まあ金だけはめちゃくちゃあったんで貸しちゃうんです。

それを借りた堀木が何て言うか「ありがとう。じゃあこの前から借りたお金でお前におごってやるから飲みに行こうよ」とか言い出すんです。

葉蔵は田舎から東京に出てきて友達らしい友達もいなかったんで、ろくでもないやつでもいいので友達が欲しい気持ちが心の奥底にあったんでしょう、ついて行ってしまうんです。

それから悪友堀木との繋がりが始まります。

親からのお金を堀木に貸す。そのお金で一緒に酒、タバコ、女を買いまくる日々。割と優等生だったはずの葉蔵が急にアウトローな毎日を過ごしたします。それが心地よかったんです。

酒とかタバコを手放せない男友達。夜のエッチなお店で出会う女性。みんなまともじゃない。でもそんな人達といると居心地がいいことに葉蔵は気付きます。その中でも夜のお店で出会ったダントツで寂しい雰囲気を纏っていた常子という女性に惹かれます。

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常子との出会い

別にとびきり美人ではありません。ただなんか世の中から孤立しちゃってるような侘しい雰囲気に魅力を感じたんです。

そんな常子に惹かれて体の関係を持つに至ります。

そんなこんなで葉蔵はまともじゃないこと、酒、タバコ、女に数年間どんどんのめり込んでいくわけですが、困ったことに全てに膨大なお金がかかりますし、しかも途中でお父さんが地方議員を引退してしまったんで仕送りがストップし、急にお金が入ってしまったんです。

中毒のように酒タバコ女にまみれていたのにもう手に入らないかもしれない。それが不安で家にある金目の物を売ってはまた飲みに出かけていました。そんな切羽詰まった状況で飲みに行った夜、めちゃくちゃ悲しい事件が起きます。

もう金がないんで行く店がないとどうしようということで、葉蔵は常子が働く夜の店に向かいます。

「常子だったらお金を立て替えてくれると思う」というクズすぎる期待を胸に、お店に入るとそこで事件が起こっちゃうんです。

お店に入るや否やもうその時点で掘木がベロベロに酔っ払っているんで、そこのお店にいる女性誰かれ構わずキスしようとし出すんです。「まずはこの女にでもキスしちゃっていいかな」とか言ってきたんですが、その女というのが常子だったんです。

普通は「馬鹿野郎」と。「常子は俺の知り合いなんだよ、俺の女なんだよ」とかいいそうなもんなんですけども、そう言ってやればよかったんですが、悪い癖、人の要望にリクエストに嫌とは言えない癖が発動します。

本心では誰にも汚されたくない気持ちはあるのに「まあ別に正式に俺の彼女とか奥さんとかそういうわけじゃないし、そんなこと言うのおかしいよなぁ」とか思っちゃって「別に構わないけど」とか言っちゃうんですよ。

これはショックですよね。常子も葉蔵のこと大好きですから。堀木もキスをしちゃえばまだ良かったんですけど、ギリギリでキスしなかったんです。

「誰でもいいと思ったけどさすがにこんな貧乏くさい女にはできねえ」とか話すんです。まさに地獄ですよ。

常子が恋する葉蔵に見放されて、さらにろくでもない掘木に無理矢理キスされそうになった恐怖からの、さらに罵倒です。

葉蔵も堀木がキスしようとした時に感じた心のざわつきで、自分が常子に恋してることを自覚しました。

そこから葉蔵と常子は人生最大と言えるぐらいに酒を飲みまくり、意識朦朧のベロンベロン状態。金も全部使い方して二人で入水自殺をします。

これで二人とも自殺して終わり終了となるかと思いきや、常子はそのまま海で溺れてそのまま死んだものの、葉蔵だけが幸か不幸か生き残ってしまったんです。

生き延びた葉蔵はお父さんの子分、ヒラメに引き取られます。ヒラメみたいな顔をしたおじさんだから本書ではヒラメとそう呼ばれています。

夜のお店で出会った女性と自殺しようとした高校生というニュースが新聞に出たんです。それがまさかの自分の息子だということでお父さんは大激怒。家に閉じ込めておくように子分のヒラメに命じます。

ですが葉蔵はこのヒラメという男が大嫌いで、ヒラメはお父さんからの仕送りをネコババしたいだけのまさに葉蔵が恐れる「まともそうに見えて表裏がある人間」ですから葉蔵はすぐ脱走します。

ただどうしても行くあてがないんで、これが最悪。悪友堀木のもとに向かっちゃうんです。そこでもやはり堀木はろくでもない男ですから、期待を裏切りません。

「お前何しに来たんだ、俺は忙しいんだ」とあんなにお金を借りて遊びまわった友達を厄介者扱いするんですよ。こいつはどうやら絵かきの塾で出会ったわけですから、彼は雑誌で漫画を書く仕事をしてるようで、それで忙しそうだと。

その漫画雑誌の担当してる漫画雑誌の編集さんがちょうど催促に来てたんです。「堀木さん、原稿ってできてますか?」と。

もうそうなったら掘木は葉蔵をうまいこと使って「すいませんちょっとこの変な客が来て邪魔してて」とか言って原稿が仕上がってないのは葉蔵のせいにして、今すぐにでも葉蔵を追い出そうとします。

「この忙しいのわかるだろ。こんなとこでぼけーっとしないでいます帰ってくれ」とか言われて「なんてかわいそうな葉蔵」と思ったのは我々だけじゃなくて、そのたまたま来ていた女性編集者さんも同様でして「どこに帰えられるんですか?」と声をかけてくれます。

こうなればどういう展開になるかは分かりですよね?もう気付いた時には葉蔵は抱いてしまってます。良蔵はメンヘラですけど超絶モテ男ですから。

その女性編集者シズ子を抱き、行くあてもないのでそのままシズ子の家に転がり込みます。シズ子はまだ28歳なんですが、夫を亡くし、5歳の娘がいました。

そんな未亡人と5歳の娘がいる家庭に転がり込むんですけど、葉蔵はとにかく女性に愛されがちですから、シズ子はもちろん、その娘さんにもお父ちゃんと呼ばれてだんだん馴染んでいきます。

さらにシズ子は雑誌の編集さんですから、何と葉蔵に漫画家という仕事を与えてくれて、「せっかちぴんちゃん」という四コマ漫画みたいなものを連載し始めて、結構軌道に乗ります。

なんだか幸せになりそうフラグが立ち始めますが、そこは葉蔵。幸せから逃げる習性を持っています。葉蔵は漫画の連載でお金を持ち始めると、またお酒を飲み始めて悪友堀木とつるみだしてしまうんです。

シズ子と娘ちゃんっていう家庭のようなものを持ってるのに、またアウトローに走り出して、結局漫画で稼いだお金も全部使い果たして、なんだかんだでシズ子の家庭のお金にまで手を出してしまうんです。

ただそれでもシズ子と娘ちゃんは変わらず健気に葉蔵を待ち続けてくれているんです。それが嬉しくもあり、メンヘラ葉蔵としてもこのままではこの親子の幸せまで壊してしまいそうだと不安にもなります。

それが怖くてまた逃げ出します。また逃げ出して次は堀木とよく行くバーの女店主マダムの所に転がり込むんです。

転がり込もうと思えば百発百中。バーの居候になります。漫画も書かずただひたすらにバーの片隅でマダムのお金で飲み続ける。なぜかずっとバーの片隅で飲み続けている謎の男に成り下がります。

「四コマ漫画書いたらいいのに」「仕事見つけたのに」我々思っちゃいますが、葉蔵にはやはりそのバーで飲んだくれるようなアウトローな人達に囲まれ続ける生活が心地よかったりしちゃうんです。

マダムの下で毎晩酒を飲み続ける日々に結構幸せを感じちゃう葉蔵。そしてさらに転機が訪れます。

マダムのバーの近くのタバコ屋さんの娘、まだ18歳の娘であるヨシ子に恋をします。最初はまるで工場から買うようにやり取りしてました。なんせヨシ子はまだ18歳ですからね。

ただこのヨシ子は予想とは真逆の性格、人間の汚い部分を疑おうともしない信じる天才でして、そこにほれました。

18歳だからこそかもしれませんが、その純真無垢さ。何でも信じる心に葉蔵は胸を打たれ、めちゃくちゃ急展開ですが割とすぐプロポーズしちゃうんです。

まあ酔っ払いながらなんですけど、タバコを買いがてら冗談半分でヨシ子に「もう明日から俺は酒をやめる」と。「絶対お酒やめる。辞めるから結婚してくれねえか」と、フランクすぎるプロポーズをします。

普通ならそんなプロポーズ真に受けませんが、ヨシ子は信じる天才。適当すぎるプロポーズも全面的に信じて快諾。もちろん結婚しましょう、と。

人を疑ってばかりだった養生としてはめっちゃ驚きますが、驚き以上にめちゃくちゃ喜びます。こんな純粋な人がいるのか、と。

「もう酒は飲まないぞ。ヨシ子と結婚するんだ」と心に決めますが、まぁそこは葉蔵さんですからさっそく次の日には飲んじゃいます。何ならベロベロになっちゃって、どうもあまりに情けなくてまたタバコを買いがてらヨシ子に謝りに行きます。

「ヨシ子ごめん。約束を守れずに早速飲んじゃいました」と。ただヨシ子はどう見ても顔も赤くて酒臭い、さらには自分で酒を飲んだと白状までしている様子を見てもまだ信じ続けました。

「いやあなたはお酒なんか飲んでない。だって私と結婚するために飲まないって約束したんだから」

この理解不能レベルのヨシ子の純粋さに改めて葉蔵はさらに心を打たれて、バーのマダムに別れを告げます。晴れて信じる天才、ヨシ子と結婚するんです。

ついに天才ヨシ子のおかげで今までで一番まともな葉蔵が現れます。

酒もやめて漫画も再開。自分で働いて必要なお金を稼ぐ、めてまともな人間になりました。「人生で一番楽しいこの生活がこのまま続けば。」そう思った時に水を差すのがそうあの男、堀木です。

ヨシ子と生活する家に堀木が遊びに来たんです。そこで久しぶりにお酒を飲んでしまいます。

もう危ない感じしますよね。

破滅フラグビンビンですよね。

とは言いながらも自宅で掘木と一緒にひさしぶりのお酒をしみじみと飲んでいました。そしたらですね、一旦席を外していたはずの掘木が急いで葉蔵を呼びに来たんです。「葉蔵!ちょっとお前こっち来い」と。

一緒に下の階に降りてみると、なんともしんどい展開。妻のヨシ子が強姦されていたんです。いつも葉蔵の漫画を回収しに来るしがない雑誌社の男にヨシ子がレイプされていたのです。

ここでもより地獄たらしめてるのはこの男堀木です。堀木はその現場を見て、そこですかさず止めに入ればよかったものを、何故かこっそり葉蔵を呼び寄せて何故かその現場を見せつけたんです。

葉蔵はもちろん堀木の行動にも激しい怒りを覚えましたけど、それより何より最も強く感情を揺り動かされたのは、自分を全うな人間にしてくれたヨシ子の信じる気持ちが仇となったことでした。

この事件が救われたはずの葉蔵の精神をまた土台からぶっ壊してきます。

葉蔵はヨシ子と出会えたことで信じることの大切さを教わりました。今まで自分は他人を疑ってばっかだったけども、ヨシ子と出会って信じる者は救われる、幸せになれるんじゃないか、とそう思えるようになってたのに、この強姦事件によって結局人間なんて信じちゃだめなんだと、またもや強烈メンヘラモードに突入します。

メンヘラアウトローモードに突入した葉蔵は全てを忘れたいと言わんばかりに浴びるように酒を飲みまくって最終的には大量の睡眠薬で自殺を図ります。

ここで更に悲しいのがその大量の睡眠薬は葉蔵自身が用意したものではなく、妻のヨシ子が用意したものだったことです。

ヨシ子はただの被害者です。よくわからん男に犯された側にも関わらず、罪の意識を感じていて自殺しようとしていたのです。その睡眠薬をたまたま見つけてしまった葉蔵は全てを悟り、自分がその睡眠薬を飲んで寝ようとするのでした。

それでも話が続きます。

もうほぼ終盤ですが、葉蔵は大量の睡眠薬でも死ねず、話は続いていきます。

自殺未遂の後もまだヨシ子との生活が続いていくんですが、もうヨシ子としては葉蔵とどうコミュニケーションを取っていいのか分かりません。犯されてしまったこと、葉蔵が自殺を図ったこと、それらが頭から離れず葉蔵の前になるとただおどおどとするだけ。

葉蔵はヨシ子のその姿を見るのが辛くてどんどん病んで行きます。

そしてついにお酒どころか薬に手を出し始めます。

最初は正しい処方として薬屋さんでモルヒネという注射薬をもらうんです。あまりにもお酒に溺れている様子を心配して、薬屋の奥さんがモルヒネを出してくれたんです。

「まあ、酒よりはいいだろう」と葉蔵は指示通り酒をやめてモルヒネの注射を打ち始めましたが、これが革命でした。

めちゃくちゃ気分が爽快になるとお酒に手を出さずとも笑いがこみ上げてきちゃうぐらい気分が良くなる。瞬間的にですが、気力も湧いてくるんでずっと書いてなかった漫画まで書けるようになります。

この薬のおかげでハッピーに完全回復しましたで終わらないのかご存知葉蔵です。葉蔵はどんどん中毒になって、その薬屋さんにモルヒネをせびるようになります。

ですが当然適切な処方量も超えてるし、お金もないそんな葉蔵がもうそれ以上モルヒネにありつけるわけないんですが、幸か不幸かその薬屋さんがまた女性なんですよ。

女性が相手なら無敵の葉蔵。もうキスして抱いてキスして抱いてで薬をしこたまもらって注射を打ちまくっちゃうわけです。

結局は酒に溺れるよりよっぽど悪い状況に追い込まれて、また自殺を図ります。

「もうだめだ、今度こそ死にそう」そう思った時、その時急にヒラメと堀木がコンビでやってくるんです。今までと違うめちゃくちゃ優しい顔をしてます。

葉蔵のことを咎めるようなことは全く言わず、掘木は「今までお前も大変だったよな」と。ヒラメも仏のような顔で「後は私たちに任せてください。病院を手配したんでまずはそこでゆったり療養しましょう」と。

もう絶望に追い込まれていて、どうにかこの薬漬けの日々を終わらせたい。でも自分の手では終わらせられない、そんな状況に陥っていた葉蔵にとっては救いでした。

今までヒラメも掘木も全然信用してなかったですけど、この時ばかりは「ありがたい。助かった」そういう気持ちになりました。

その二人の提案に応じて田舎の病院で療養することにします。

そんな様子を心配して奥さんのヨシ子は葉蔵の弱さを重々わかってますから、「念のため、モルヒネを打つための注射器を持ってった方がいい」とモルヒネを手渡そうとします。

でも葉蔵は初めてそれを断るんです。ここで革命が起きます。葉蔵は人生で初めて人から与えられたものを断ることに成功します。

そのぐらい酒でも薬でも辛い目に遭いまくって、もう懲りたと最後の最後でついに葉蔵が破滅の根本的要因「断れない性格」を克服するんです。

これで病院でしばらく療養していつしか普通の生活に戻ろうとする葉蔵でしたが、残念ながらそうはいきませんでした。

いざ病院に着いたら判明します。葉蔵を待っていたのは療養というイメージとは程遠い鍵付きの牢屋みたいな部屋。そこに無理やりぶち込まれるんです。

実はヒラメの笑顔も掘木の笑顔もう全て嘘。でも傍から見たら完全に狂ってしまっている葉蔵を精神科の病院の檻にぶち込みたいだけだった、やっかいものを檻にぶち込む作戦が決行されただけだったんです。

さすがの葉蔵もショックを受けます。

「確かに自分は弱い人間だと。確かにそうは思っているけど一度たりとも狂ったことはないはずだ」と。「俺は至って正常なのに完全に精神が狂ってしまった人だけを収容するこんな牢屋みたいな施設に入れられてしまった」と。

「もう俺は掘木から見てもヒラメから見ても、生活を共にしているヨシ子から見ても、ただの廃人であり狂人なんだ、人間失格だ。もはや自分は完全に人間ではなくなりました」、そう心の中で呟くんです。

この終盤でついに「人間」という言葉が出てくるんです。それからその隔離病棟でずっと収容されているうちに、ついにお父さんが亡くなったと知らされます。

生まれてこのかたずーっと心の奥底で恐れていた、あのお父さんもう死んでしまってもう何の張り合いもうなくなります。もはや異常でも正常でもない完全に無の状態になったら、葉蔵は「まあ異常ではないだろう」とそう判断されて次は田舎のボロい家で収容されることになります。

そこでお手伝いのヨボヨボの婆さんと一緒に生活し、ただただ無の状態で時間だけが過ぎ去っていく。日々幸せも不幸も何も感じません。ヨシ子が犯されて以来増え続けた白髪でもうお爺ちゃんのように真っ白な頭。

そして最後に一言「今年自分は27歳になります。大抵の人からは40歳以上に見られます。」

いやこんな紆余曲折あったけどまだ27歳だったのね」という一言でストーリーが終わりとそんなお話でございます。

葉蔵のストーリーとしてはここで終わりなんですが、本書の締めくくりとして最後を書かれているのは、一時期転がり込んでいたあのバーのマダムが葉蔵を思い出して言ったこんな言葉なんです。

マダムは葉蔵をよく知った上で「葉蔵は悪い人間じゃない。全てあの人のお父さんが悪かったんだ。私たちが知ってるよちゃんはとても素直で気が利いてお酒さえ飲まなければ、いやお酒を飲んだとしても神様みたいないい子でした」

このマダムの一言で人間失格というお話は幕をとじるのですいかがでしょうか?

「人間らしいって何なんだろう」そして「私たちは人間らしくあるべきなのか、そうじゃないのか」そんな問いを投げかけられているように私は思ったりしました。

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